わたしが高校3年生のとき、ちょうど受験を終えた頃に好きになった人がいた。
Twitterの音楽アカウントで知り合った人。
その人は下北沢に住んでいて、いい大学を出ていて、いい会社に就職して、SEとして渋谷のでっかいビルで働いていた。
音楽の趣味も似ていて、
仕事も生活も洗練されていて、
たくさん稼ぎがあって、
部屋に魚喃キリコの漫画や、
浅野いにおの漫画やフィギュアがたくさん置いてあって、
「賢いサブカル系」という、典型的にわたしが好きになるような人だった。
まさに大学1年生になろうとしていた、初々しい女の子が抱いた恋心なんか、26歳の彼は真面目に取り合うはずはなく。一緒にライブに行ったりご飯に行っても、いつも最後にはラブホテルに連れていかれるというデートコースだった。高3で経験した、初めてのセフレ沼だ。
わたしもそれを拒まなかったし、悔しいけどそれ以上になることはできないのを知っていた。
そのうち、華の大学1年生という貴重な時間を報われない恋愛に費やすことに、心も身体も限界を感じてしまうようになった。
そして、できるだけ連絡をとらないように、SNSを見ないようにするようになった。たまにLINEしてくると胸がギュンとなるからやめて欲しかった。
「CDJ一緒に行く人居ないから行かない?」ってそんなしんどくなるためにわざわざ行くわけないじゃんよ。
しばらく見ないようにしていた相手のSNSを久々に覗くと、そこには新しい彼女が出来たような投稿がされていた。有給取って来た!の文字と、光る江ノ島の海の写真。
「彼女できたんだね」
「最近会ってないけど、これからももう会わないよ」
とLINEをしたら
「そういうこと言われると会いたくなる」
と返ってきたっけな。
しばらくLINEは消せなかったけど、1年生の年末に、「男のことも大掃除しよう!」と思い立って消した。
こうしてなんとか関係を終わらせた。
それでも、教えてもらったリア垢のアカウント名はずっと覚えている。でも最近は怖くてネトストもできなくなっていた。
わたしの後に、ちゃんと彼女になった女性と、結婚してしまうことが分かっていたから。
出会った時から2年が経って、恋を諦めてからも1年以上経ったけど、未だに「好きだったなあ」と思うし、「辛かったよなあ」と心が痛くなるのだ。
時は経ち、大学生活も3年目になった。そして最近わたしは社会人になる準備をはじめた。
いろいろ進めていく中で、見つけたインターン生募集のサイトに、彼が勤めている会社が載っていた。
一瞬胸がギュンとした。
「もし、その会社のインターン生になったとして。億万が一、彼と再会したらどうしよう」
少し動揺して、Twitterの検索欄に覚えていた彼のアカウント名を入力し、彼のリア垢を、漁ってしまった。
彼が今どこで働いているのかだけ知ることができればよかった。それ以外の情報は、要らなかった。
プロフィール欄に、「ex ○○(会社名)」と、あるURLが貼ってあった。それを踏むと、なんと彼は起業したらしい。なんかのCEOという肩書きと、名前と、顔写真がはってあった。
ということは、そのインターン募集してる会社は辞めたのか?辞めたという100%の確信が欲しかった。
彼は「退職しました」とか、そういうことをブログに書く人だから、きっとそういう記事があるだろうと思って、ツイートを遡った。
のが運の尽きだった。
たくさんのツイートの中から見つけてしまった「奥さん」の文字。
そして直ぐその後に見つけた「結婚しました」という題名のブログ。
ああ、やっぱりそうだよな。知ってた。知ってたよ。
分かってたけど。涙が目に溜まる。
恋を終わらせるために貼った絆創膏は、いつだって剥がすことが出来てしまう。弱いなあと思うけれど、こればっかりは仕方ない。傷と絆創膏を一生背負ってずっと生きていくのだろう。
最後にわたしがLINEした時、
「わたしが辛かったこと覚えていて」
「わたしが幸せになれるように願っていて」
と言ったけど、それすら忘れて奥さんと一生を生きていくのだろう。
当時からわたしのことを雑に扱っていた人が、きちんと覚えているはずがない。
でもそいつは結婚する前にJKだったわたしと関係を持つような男だよ。
まあ、今更どうでもいいのか。
「幸せになれるように願っていて」と言ったけれど、それからずっとわたしの恋愛は散々だし。
綺麗なことなんてひとつもない。あるのは傷を抉られることだけ。始まってどうせ終わっていくだけ。それでも一コマずつ進んでいくだけ。そうして進んだ先に終わりがあるだけ。絶望して希望をもって絶望するだけ。
今日、好きだった人が結婚したことを知って
既に終わっていた恋が完璧に終わった。
それでも、あの恋を、あの人が捨ててしまった出来事たちを、ひとつも亡くさないように無かったことにしないように。
その出来事たちを、地を引き摺らせてでも人生を共に歩ませる。
どうしようもない恋だけど、わたしはどうしてもそれを捨てられないから。